行政視察報告書をご覧になられる方へ
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行政視察は無所属1人会派ですので、私自身が現地で視察した事実を書いております。
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群馬県太田市休泊小学校と岐阜県多治見市多治見中学校の2校の報告書となっております。
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資料はこの画面上ではご覧になれません。ご覧になりたい方はご連絡ください。
行政視察報告書
「子どもにやさしい校舎改築」
・太田市立休泊小学校校舎改築の概要
「多治見中学校校舎改築の概要」
・設計コンペ方式について
・市民参加の学校づくりについて
・エコスクール化について
高松市議会議員 香川洋二
1 はじめに
今回の行政視察は高松市議会のお許しをいただき、平成14年10月17日18日両日、群馬県太田市休泊小学校並びに岐阜県多治見市多治見中学校の校舎改築について視察した。休泊小学校では単なる校舎の耐震補強ではなく、子どもたちの視点にたった改築が行われた。また、多治見中学校では、市民参加の学校づくりであり、五感に訴える校舎改築が行われた。両校とも私に大きな感銘を与えた。この報告書は2校にわたるため、第一部を休泊小学校の校舎改築について、第二部を多治見中学校改築について記述する。映像については、報告書最終ページに掲載、個々の資料は文章中参考資料として番号を添付、別紙とする。
第一部
群馬県太田市立休泊小学校
1 太田市並びに休泊小学校の概要
太田市の市制施行は昭和23年5月3日。人口150,138人の内陸性工業都市で、戦前から中島発動機工場があり、現在もその流れを受け継いだ富士重工業株式会社の車両製造工場、また、サンヨー電機などの工場が立地し、市の主産業となっている。財政的にも裕福な市といえる。(資料1平成14年度太田市議会の概要)
次に太田市立休泊小学校は市郊外の龍舞地区にあり、最近の宅地開発が進む中においても、落ち着いた田園のなかにある。開校は明治7年5月であり、古い歴史を持った小学校、現在19クラス、636名(平成14年5月1日現在)の生徒が在籍している。この学校の耐震改築工事は平成10年7月工事を開始、平成11年2月完成した。この改築工事は公立学校優良施設文教施設協会賞(先進的技術部門)社団法人建築設備維持保全推進協会BELCA賞(ベストリフォーム部門)を受賞し、2年間に700名以上の見学者が訪れた。(資料2平成14年度学校概要)
2 耐震補強工事の概要
休泊小学校の校舎は20年以上経過し、現在の耐震基準に合わない、20年以上の経過の校舎で老朽化が進んでいた。そこで太田市は校舎を大規模改造、学習者である子どもの視線に立ったリニューアルを目指した。
従来耐震補強では、ブレースや壁面の増加により、学習環境や外観デザインが損なわれる傾向にあった。そこでアタッチドフレーム工法を取り入れることにより、動線の妨げにならない、機能を損なわない改修となった。この工法は補強機能をもったフレームで校舎を挟む革新的技術だった。この耐震補強工事にともない、校舎内部の改装も同時におこない、従来の教室と廊下との壁面、袴を取り外し、バリアフリー、明るい教室に改造した。また、教室後部の一角はグループコーナーと呼ばれ、バルコニーに飛び出す形の教師のためのスペースがあり、児童の相談や学習指導に利用されている。備え付けの机とU字型のベンチで構成されている一角はコロンブスの卵を思い出させる。強くなった校舎にはベランダが増床され、杉板張りの床は子どもにとっても暖か味とやすらぎの場を与えていた。職員室、校長室も増床され、校長室からは常時登下校の児童と校長先生が顔をあわせることが可能となった。
また職員室、校長室という壁がなくなりワンルームとなり、職員室全体が明るい雰囲気となった。校長室の横には丸い部屋が設置され、相談室と呼ばれている。
プライバシー保持のときのみ使われるとのことで、興味深いものだった。また、2階3階に上がる階段も従来のL字型から螺旋階段に改修され、屋上にはドームが設けられ、明るい外光が入っていた。教室や廊下の照明も間接照明に切りかえ、外部からの自然光と蛍光灯の間接光が上手く調和していた。(資料3耐震補強ならびに大規模改造工事資料)
この休泊小学校校舎大規模改造事業に関わった経費は、増築部分を含む校舎大規模改造(老朽化)253,187千円。補強の校舎大規模改造85,438千円。仮校舎(リース)57,697.5千円。合計396,322.5千円だった。
3 考 察
休泊小学校での耐震補強工事で一番感じたことは、耐震補強工事・大規模改修工事が、A+B=ABではなく、A+B=Cとなったことだ。すなわち、既存建物Aと補強改修BからリニューアルCが生まれる発想の必要性を一番感じた。また、新しい技術の投入に躊躇しなかった太田市に魅力を感じた。補強工事後は教室と廊下の間の袴撤去、増床部分の板張りルーフバルコニーなど、木のぬくもりを進んで導入することは、今後学校改築の一つの指針であり、必須条件になると考える。
また、校長室、職員室の一体化も参考となった。
校舎ではないが、運動場南にある大きな桜とケヤキ、東にある滑り台つき小山は高松旧市内に育った私には魅力的に映った。
第二部 岐阜県多治見市立多治見中学校
1 多治見市と多治見中学校
多治見市は岐阜市より東南東45km、名古屋市より北東36kmに位置し現在は焼物の町とともに、名古屋市のベッドタウンとしても発展している。市制施行は昭和15年8月。平成14年度人口は106,500人となっている。(資料4議会概要)
ところで、多治見中学は昭和32年4月創立され、平成14年5月現在567名在籍している。校舎の老朽化にともない、今回改築工事がおこなわれた。この事業は文部科学省エコスクール・パイロットモデル事業指定校、公立学校優良施設文部科学大臣奨励賞を受賞した。
2 改築工事概要
今回の改築にあたり、多治見中学校は市民参加型の五感に訴えられる学校づくりを目指した。改築にあたりまず「地域の声」「生徒の声」を取り入れることから始まった。PTAや地域住民が参加する建設検討委員会が立ち上げられ、「こんな学校になればイイ」というテーマで「夢アイデア」として募集した。意見は多種にわたり、旧校舎の不便さは多く出てきたが、理想の学校という抽象的な意見を中学生が述べるのは困難なようだった。240の提案のうち、主な採用は@木をたくさん使った教室A教室にベランダ設置Bよい自然環境のなかで、明るいゆったりした広い感じの学校C障害のある人も使える施設等だった。(資料6第一回市民参加促進ワーキンググループレポート)
これらの提案をもとに、設計コンペ方式がとられ、地域の代表も審査員」として加わり6社から提出された1枚のスケッチ(エスキス)を元に一案が選ばれた。設計思想は8項目。@生徒一人一人が感性豊かな心を育み、相互の連帯感を培うことが出来る施設環境。A緑豊かな校内、温かみのある快適な室内環境。B周辺の自然環境との共生。C省エネルギーを考慮に入れた施設。D地域の交流及び生涯学習の場としての施設。E地域の避難場所としての施設。F情報化時代に対応した施設。Gバリアフリーを配慮した施設。
(資料7多治見中学校増改築設計協議(エスキス方式)審査委員会事務要項)(資料8多治見中学校増改築設計競技実施要綱)
建築経過は平成9年生徒、PTA、地域の意見を取り入れたエスキスコンペを実施、6社のうち象設計集団に決定。平成10年実施設計業務。平成11年工事発注、平成13年竣工となった。(資料5多治見中学校校舎運動場竣工概要)(資料10建築概要)
完成した施設には省エネルギーを考慮するということで、太陽光発電パネルが導入された。その後PTA関係者からもう一つ踏み込んで、風力発電について勉強できるようにと風力発電装置が寄贈された。(資料9太陽光発電)これも学校と地域との連携のよき事例だった。
さて、校舎関係では、校舎中央部に20世紀をつづる言葉がデザイン化されていた。校舎と校舎の間は木製デッキでつくられ、けやき6本を中心に緑豊かな中庭となった。中庭には生徒の焼物展示コーナーもあり、陶磁器の町多治見市ならではディスプレーだった。また、校舎1階部分は半外部廊下となっている。教室、半外部廊下、中庭と続くコンセプトがエスキスコンペの採用理由となった。2階3階の廊下は当然板張りであり、ベランダにも十分な植栽が施されており、心やすらぐ場となっていた。屋上には泉水があり、またヒートアイランド現象緩和のため、芝生と板張り廊下で整備されていた。植栽の水等は、浸透性のグラウンド並びに雨水利用の循環型で、屋上の植栽にはポンプアップで対応していた。屋上の三角屋根の部分は板張りで走れるようになっているのにも驚かされた。教室は多治見中学校型教室と呼ばれ、2教室を統合し、間に共有多目的スペースを設けた形式になっている。1教室単位よりも閉塞されず全教室のオープンスクール形式よりもまとまりのある空間となっていた。保健室は校内敷地の高低があることを逆に利用し、屋外の太陽光を小さな中庭を通じ、入れることにより保健室にありがちな湿っぽさを払拭していた。省エネルギー対策としてはソーラーパネルを導入、平成13年度は中学校での全消費電力中12パーセントをまかなった。また、障害者対策としてはエレベーターが設置されている。地域開放としては、体育館等が開放されており、体育館のステージはカーテンを開くことで外光が取り入れられるようになっていた。付属施設としてシャワールームが設置されており、災害時に使用される。
この多治見中学校増改築に関わった建設事業費は2,252,198千円だった。
3 考 察
今回の視察は驚きの連続だった。本当にこんな学校があるのかと目を疑った。余談だが、次の週に開催された中国四国地区造園学会パネルディスカッションで多治見中学校の映像をプレゼンしたが、だれも学校とは思わなかった。まず、多治見中学校校舎改築が成功したのは、「地域の声」「生徒の声」を取り入れたことだと思う。本当の協働が見ることができた。自分達が携わった施設は自分たちの財産として誇りを持ち、当然大切に扱われていた。次の成功理由は、競争原理の導入だと考える。設計コンペにあたり6社を競争させたことにより、競争原理が働き商品(建物)に艶がでると感じた。校舎改築ではないが、高松市の街区公園の設計も地域の声をきき、設計コンペ方式を導入すれば、必ず同じ予算でも素晴らしいものが出来ると確信している。今回の行政視察は現在地方行政が変革のなかにあり、市民とともに歩むことが絶対条件であることを示唆したものだった。
4 おわりに
今回の視察にあたり、お世話になった太田市市議会副議長 白石さと子氏、太田市市議会事務局 富岡義雅氏、本多栄治氏、太田市教育委員会 石倉晃司氏、今西 博氏、休泊小学校校長 山田孝充氏、多治見市議会事務局 本多栄治氏、都市計画部 矢頭重保氏 多治見市教育委員会 水野謙司氏 多治見中学校校長 安藤功二氏に心からお礼申し上げる。また、今回の視察許可を出していただいた北原和夫高松市議会議長はじめ議会事務局職員の皆さまに感謝する。
休泊小学校写真資料
休泊小学校耐震改造後の外観 教室は間接照明に変更
廊下の袴が無くなり明るい 右飛び出しが指導コーナー
バリアフリーと開放形式の教室 改築でユニークなベランダ
教室後ろの指導コーナー 校長職員室は通学路横のオープン
校長室横の相談室 明るい螺旋階段
多治見中学校写真資料
多治見中学校の完成平面図
生徒・地域の声を反映し、エスキスコンペ方式で
校舎運動場側から 2教室の間に共用の余裕教室が
共有教室からの風景 中庭の風景中庭は板張り
生徒達の多治見焼き作品 ショッピングモール見たいな雰囲気
2階からの眺め 窓枠は全部木製
女子生徒の希望で新館は女子トイレのみ 屋上のあずまや
屋上に設置されたベンチ 屋上の芝生立っているのが校長先生
3階廊下から屋上を見る 屋上のビオトープ
水は雨水の循環式に 障害者用のエレベーター
半外部型の廊下 保健室の光取り
生徒による20世紀を伝える言葉 こんな学校を地域の声で造りませんか